労働環境を整えるよりも重要なのは学習環境を整えること
以前、ニュース番組を見ていたら、Z世代会社員たちが
「上司に怒られないと期待されていないと感じる」
「優しい上司が多いので、このまま成長できないと感じる」
と、そのようにインタビューで応えていました。
この話を深掘りしてしまうと”怒り方論”みたいな話になるので、簡単に読み解きたいと思います。
今、多くの企業は労働環境を整えることに重点を置いています。それは求人と離職対策です。
もちろん法的基準を満たしていることは企業活動の前提条件です。そこに向けて努力をすることが求められます。そしてZ世代が”怒られ慣れていない”ことも事実で、Z世代の管理者世代が怒り下手なのも事実だと思います。だから、怒らず褒める、若者の言い分に耳を傾けて実現する、という思考になる人が多いことも頷けます。
若者に合わせることで、合わなさが強調されていく現実
Z世代が求めているのはただ働きやすい環境だけなのでしょうか?
もちろん働きやすい環境整備はとても大事です。しかし、私はそれだけではないと感じています。
とても多くの若い美容師さんたちと話したり、飲んだりするなかで、彼らが感じているのは居心地の良い環境だけではないと思います。
Z世代は成長できる環境を求めている
労働環境を整えているのに、Z世代の離職が止まらない、というのであれば、それは彼らのニーズとのミスマッチが起こっていると考えたほうがいいでしょう。
若い世代の美容師さんたちと話していて彼らが感じているのは、漠然とした不安です。
私のような中年も若い時は不安を感じていましたが、今ほどではありませんでした。若者は、今のとても不安定な社会状況に強いストレスを感じています。では、その不安やストレスを解消してあげるためには、何が必要なのか。それは生き抜くための知性だと思います。
離職対策は、ここにいたら未来が見える、という感覚
若い世代に提供すべきは”学びの環境”だと思います。
ここにいると成長できる、未来を見ることができる、というある種の安心感と期待感です。
それらの感情を生み出すのは学んでいる、成長できているという実感だと思います。
Z世代が求める”学び”とは、大きくこの5つ
今の社会環境が見えないのであれば、それが見える知識と知恵を渡してあげることです。
Z世代美容師さんたちから、学びたい、と言われたことがある5つのトピックスを挙げてみます。
知るべきは、雇用形態の違いです。インボイス制度によって、多くの個人事業主が、また業務委託契約を結ぶ事業主たちにも危険な状況が迫ってきています。
正社員であるか、業務委託であるか。はたまたそれ以外か。
それぞれの雇用形態には、どんなメリットがあって、どんなデメリットがあるのか。早い段階で、知らせることが求められます。
若いうちから個人事業主や事業を始めている仲間が多いZ世代は、(人にもよりますが)経営に強い興味を抱いています。昔は、若者がそんなことを気にしなくていい、という風潮がありましたが、今の若者は賢いので、多くのことに興味を持ちます。逆に言えば、知らないことに対して、強いストレスを感じています。
お金の知識は若者だけでなく、歳上の人たちも、もっと持つべきです。株式投資でも、投資信託でも、iDECOでも、保険でも、幅広く、未来に向けた資産形成を、まだ所得が少ないうちから知ることは経営感覚を磨く上でも重要な知識です。
マーケティングは売れるための重要な戦略です。ただその言葉は知っていても、ネットやSNSで情報は溢れていても、美容師さんが体系的に学ぶ機会はとても少ないのが現状です。今、売れていると言われる美容室の経営者の多くは、マーケティングを学んでいます。
今、SNSで人気がある美容師さんは、ほぼ技術がある人と言っていいでしょう。この傾向は美容師さんだけでありません。料理にしても、スポーツにしても、SNSでフォロワーが増える人の共通の要素は技術です。SNSでフォロワーが多い美容師さんと話していても、さらに技術を磨きたい、と言う人がとても多く感じます。何を発信するにも、技術がないと発信するネタがありません。
これらに加えるとしたら、経済、ビジネスプラン創造、マネジメント、デジタルなどの知識があるでしょうか。どの知識も、今の時代を生き抜くには必要な要素だと思います。また社会を構成する知性でもあります。これらのトピックスを学ぶことで、見えなかったものが見えてきます。
このような学べる環境を整備しようと思ったら、労働環境を整えないわけにはいきません。
それで経営が難しくなるのでは?
と思う方もいるかと思いますが、その逆だと思います。
学ぶことで、例えばブランド力が高まったり、付加価値に気づいたり、生産性がより良くなったり、と経営にはプラスに働くことのほうが多いはずです。
危険性があるとすれば、経営者がこれらの知識がまったくなかったり、興味がない場合です。
そんなときは、一緒に学べば良いと思います。
情報がネット、SNS上に溢れている今だからこそ、企業という組織は様々な知識を、知恵を従業員のみんなに教育していくことが、会社へのエンゲージメントを高める強い要素になっています。なかなか飲み会だけでは、このエンゲージメントを得ることはできません。
ぜひ、雇用条件をよくする前に、もしくはより良い雇用条件のひとつとして、幅広い教育の機会を作ってみてください。
デジタルに関する知識は、サロン業務のワークステーション「美歴」も参考にしてみてください。
またサロン経営者の後継者育成については、過去記事「ジャニーズに見る後継者育成と経営ギャップ崩壊に備えること」もご参照ください。