「1万時間の法則」はご存知だと思います。
何かの分野で一流として成功するには1万時間の、努力、練習、学習が必要だというものです。
1万時間というのは、1日3時間で10年、1日9時間で3年という時間です。
根拠となっているのは、ある音楽学校でコンサートを開けるレベルになるには1万時間の練習が必要だった、ということのようです。これをとある新聞記者が紹介して有名になったようです。
たしか、誰か著名な経営者がこの法則を引用したスピーチでさらに有名になった、ような記憶があります。
1万時間の法則は間違っている?
さて、この「1万時間の法則」は正しいと思いますか?
個人的な経験から言えば、正しいか、正しくないか、という二者択一での判断は難しいところです。
私は25年くらい、雑誌の編集者をしてきました。20歳のころ、職についた最初から練習もなく、いきなり本番(仕事)だったので、当時(今から25年前)は、1日10時間以上、ライター・編集者の仕事に取り組んでいました。
確かに、3年くらいしてやっと、自分ひとりで記事が書けるようになってきた気がします。
では、この1万時間の法則は正しいのでしょうか。
成長には時間が必要という妄想に囚われてはいけない
実際のところ、どの”分野であるか”がキーになると思います。
私のやっていた”編集”という分野においていえば、その当時は必要だったかもしれません。しかし、今はそんな膨大な時間は必要ありません。
逆に、この法則の根拠となっている音楽の分野は必要なのだと思います。スポーツも同じかもしれません。フィジカル的な鍛錬が必要な分野では、何度も、何度も繰り返し練習することでレベルがあがるのだと思います。ですから、体を使った”分野”においては、この1万時間の法則は通じるのだと思います。
しかし、知識的領域というのでしょうか、編集者や一般企業のような、主としてフィジカルではなく、知識や知恵だけを使う分野に関して言えば、関係ないようです。それどころか、長時間をかけるほどマイナスになる気すらしてきます。
美容師はフィジカル能力型職業から脱却するべきか
では、美容師さんはどうでしょうか?
美容師さんも技術職ですから、体を使った分野です。であれば、1万時間の法則は当てはまるのでしょうか。確かに、アシスタントからスタイリストにデビューするのに3年ほどかかるといいます。
お、1万時間の法則じゃないか!
それって本当ですか?
個人的に、今、美容師さんたちが持っている常識に疑問符を持ったほうがいいのでは?と思っています。
もちろん、技術者として一人前になるためには3年間は必要なのだと思います。
しかし、それがすべて、でいいのでしょうか。
もしくは、一人前の美容師さんになるために、1万時間は必要なのでしょうか?
それは、カリキュラムを作っている人の時代の常識なのではありませんか?
努力の常識を見直し続けることが大事
ここはひとつ、見直してみてもいいのではないかと思います。
一般企業において、若手社員の教育制度は日進月歩で進化しています。新卒入社して数ヶ月後には先輩たちと同じく同僚として活躍するまでになります。
これは教育制度がすごいから、だけではありません。その教育制度が示す努力の方向性、そしてその努力を活かすビジネスモデルにあるのだと思います。
少し深掘りしてみたいと思います。
まず見直してみるべきは、今、行っている努力についてです。
先輩たちがしてきた努力と同じ視点の努力を、若者に求めていないか?
カリキュラムを作る美容師さんはきっとそれなりの経験者だと思います。
それであれば、その人がしてきた努力の内容と今すべき努力の内容は違うはずです。
目線を変えて、今すべき努力にレベルを変えてみる必要性があると思います。
例えば、みんな一律ではなく、ブランディングや得意なこと、求められていること、など様々な個人分析をした上で、その人に合った教育(努力)をさせることで成長速度は早まる可能性があります。
一般企業では、共通のカリキュラム的なもの(社会常識や業務に不可欠なスキル)はあるにせよ、ひとりひとりの業務に合わせた教育制度になっているところが多いと思います。
そんなカリキュラムを作るのは手間だし、教える人がいないよ!
という声が聞こえてきそうですが、ここにチャレンジしないと美容室企業の未来ってないと思います。
例えば、一般企業の場合、先輩がメンターとして新卒などについてくれます。美容室も教育担当者がすべての見るのではなく、メンター制度を導入して、得意なスキルを教えてあげるなど、一律ではない成長を与えてあげるのはどうでしょうか?
努力の視座を一段あげることでレベルがあがる
教育(努力)の視点を一段あげること。
高いレベルの教育を行っている実感を、教育側と受ける側で感じさせることが教育サロンにおいて重要なポイントになると思っています。
教育制度のバージョンアップと同時並行で行いたいのが若手の業務改革です。
アシスタントという名前から、スタイリストをアシストするのが仕事であるのが常識かと思います。
この概念を変えた方がいい、、、、スタイリストがいます。
自分のために働く人、と思っている人が今の時代にもいるようです。アシスタントは修行期間だと思っている人もいるようです。そのような風潮の美容室に勤務するアシスタントは早々に離脱するか、デビューして数年もしたら、離職するのではないでしょうか。
美容室のアシスタントのモチベーションのひとつは、技術的な成長だと思います。できないことができるようになる、わからないことがわかるようになる、そして時には後輩ができるというのもひとつかもしれません。そこに社会人として、組織の一員として、会社の成長、売上に貢献しているという業務を追加することはできないでしょうか。
業務内容を練習とアシスタント業務に集中させるのではなく、ひとりの社会人としての役割を与えることです。そして同僚として先輩が見ることです。簡単に言えば、活躍の場面を与えることです。重要な実務を任せることです。
一般企業において、アシスタントというのは実務を行う人という場合があります。
プロデューサーやディレクター、マネージャーなどの横文字の名前がつく人には、アシスタントプロデューサー、アシスタントマネージャーなどがいます。この人たちは、アシスタント業務をするのではなく、限りなく実務を行う人たちです。サポートではないのです。そこで実務能力を磨いて、指示する人になっていきます。私が知る有名なファッションスタイリストさんのアシスタントは、そのスタイリストさんの実務をすべて網羅していて、おおまかな指示のもと、ほとんどがそのアシスタントさんが仕切ります。そしてセンスや人脈を磨いて、スタイリストさんになっていきます。補助ではないのです。
努力と実務をリンクさせることが重要
教育制度と実務内容がリンクしていれば、きっと美容室でも同じことができるのではないでしょうか。
もちろん新卒のころは、社会人としても未熟ですからできないことばかりだと思いますが、実務内容を考え直すことで、早々に社会人としての、組織での役割を与えることができると思います。
美容室は組織化できない、とよく言われます。それは一律化しようとするからではないか、と思っています。教育や業務のカスタマイズはとってもめんどうです。しかし、めんどうなことだからこそ、ほかの企業にはない独自の組織化と永続的な企業化ができるのではないでしょうか。
デジタルに関する知識は、サロン業務のワークステーション「美歴」も参考にしてみてください。
デジタル化を始める前に、ぜひ、読んでみてください。「美容室デジタル化で”してはいけないこと”とその3つの対策とは?」